成田やその周辺で、街や学校、商業施設などを舞台に作品を手がけるアーティスト・シムラユウスケさん🎨
作品の中に取り込むのは、色や形だけではありません。
そこに暮らす人、子どもたち、地域で起きた出来事、そして残された記憶。
シムラさんは何をアートとして捉え、なぜ成田で活動を続けているのでしょうか。
目次~もくじ~
街も人も巻き込んでつくるシムラユウスケさんの今の活動

シムラさんは、写真やドローイング、ペインティング、インタラクティブなプロジェクトアートなど、幅広い手法で作品を発表してきたアーティストです。
自身が立ち上げた現代アートプロジェクト「ふわりの森」は現在も続いており、2026年には「ふわりの森アートプロジェクト」の代表として、県外のアートイベントにも登壇しています。
成田周辺で暮らしていると、シムラさんの作品に気づかないうちに出会っているかもしれません。
イオンモール成田の「なりそらテラス」にある「NARITA」のシンボルアートやファニチャー。
芝山町で地元の子どもたちと一緒につくった作品。
栄町の町民プールや公園に広がる作品もそのひとつです。
お話の中でシムラさんは、作品の広がりを「ラッピング」という言葉で表していました。
場所をラッピングする。モールをラッピングする。そして、街をラッピングする。
壁に一枚の絵を飾って完成、という形だけが、今のシムラさんのアートではありません。
話を伺う中で見えてきたのは、街や場所、そこにいる人や出来事まで含めて作品にしていくという考え方でした。
作品のイメージは場所と人との出会いから生まれる

では、その作品のイメージはどこから生まれているのでしょうか。
シムラさんの場合、美術館で他の作品を見てイメージをふくらませるというより、日常の中の出会いがきっかけになることが多いそうです。
友人と遊んでいる時間、学校などを訪れたとき、何かの機会で足を運んだ場所、自分にとって思い入れのある土地。そして、そこで出会った人。
だからこそ、その場所にいる人たちも作品に巻き込みたいという思いがあるといいます。
5色だけで描くという制作ルール
制作スタイルで興味深かったのが、色の使い方です✏️
シムラさんは、作品制作で使う色鉛筆を基本的に5色に絞っているそうです。
本人にとって「5」は、自分の人生や考え方に影響を与えてきたものと重なる数字。
子どもの頃から影響を受けてきた『ドラえもん』の主要キャラクターが5人であることなども含め、自分の中では「5」が運命的に重なっているように感じているのだとか。
単なる配色の決まりごとではなく、シムラさん自身の歩みが反映されたルールです。
シムラさんの作品を見てみると、たくさんの色を使っているように見えますが、基本的には5色の色を使って制作をしているそうです!
「子どもたちの夢の半分になれればいい」

伺う前、私は「アーティストさんは少し近寄りがたいのでは」というイメージを持っていました。笑
実際にじっくりお話を聞いてみると、その印象は大きく変わりました。
お話を伺っていて、子どもたち自身が持つ可能性を大切にしている方だという印象を受けたからです。
シムラさんの地域作品には、子どもたちが制作に関わっているものが多くあります。
その理由につながる言葉が、これでした。
「子どもたちの夢の半分になれればいいなと思って活動している」
完成したアートを子どもたちに見せるだけではありません。
子ども自身が制作やプロジェクトに関わり、その経験が将来につながるきっかけになることを大切にしています。
実際の活動を見ても、その姿勢は各地で確認できます。
2024年には芝山町の航空科学博物館で、芝山小学校の児童と一緒にエレベーターアートを制作。
栄町では町民プールで、町内の児童や住民約100人と35mの壁画をつくりました。
2025年には横芝光町立白浜小学校で、海外から来日したアーティストとともに小学生との授業・交流にも参加しています。
閉校した学校から生まれた「新しい転校生」

子どもたちとの制作の中でも、特に具体的に話を聞けたのが、TOAST AND HONEYの店内にある作品のひとつです。
地元の小学校が閉校することになったとき、シムラさんは最後の在校生だった子どもたちに、それぞれ自分の洋服の切れ端を持ってきてもらいました。
その布を使って完成させたのが、閉校後にやってくる「新しい転校生」のような存在の作品です。
この作品について、シムラさんはこう話していました。
「記憶と気配っていうのをリレーしていくのが、僕のアートにとってのやる意味なのかなと思う」
その場所にいた人、そこで過ごした時間、地域で起きた出来事、そして土地の気配。
作品そのものだけでなく、そうしたものまで作品を通して次の世代へつないでいこうとしています。
「NARITA」の中にある「ART」から始まった「ふわりの森」
ここで少し、シムラさんのこれまでに目を向けてみます。
小学生の頃には、サッカー選手やミュージシャン、アーティストなどになりたいと思っていたそうです。
もしアーティストになっていなかったら何をしていたか伺うと、テレビ関係やプロデュース関係など、何かをつくる仕事をしていたと思うとのこと。職種は違っても、「何かをつくること」への関心は昔から続いているようです。
アーティストとしての活動を始めたのは20代前半。
東京やニューヨークから活動をスタートし、20代から海外でも作品を発表してきました。
過去に公開されたインタビューでシムラさんは、海外へ向かう際に成田空港を利用するうち、ふるさとの成田がもう一つの拠点になっていったと振り返っています。
そして、海外で出会ったアーティストを日本で受け入れられる場所を開くため、成田空港圏で始めたのが「ふわりの森」だったと語っています。
2014年にスタートした「ふわりの森」では、同年からアーティスト・イン・レジデンスとして国内外のアーティストを成田へ招いてきました。
成田を「通る場所」ではなく、アートを目的に訪れる場所へ
プロジェクトのコンセプトの根っこにあるのは、ふるさと・成田です。
「NARITA」という英字表記をよく見ると、その中には「ART」の3文字が入っています。そこから、成田という地域でアートを展開していく発想がスタートしたそうです。
空港を利用するときや観光の途中に、通り過ぎる場所としての成田ではなく、アートそのものを目的に訪れる成田へ。
街の中にアートがあり、それを探しながら地域を歩いてもらう。
「ふわりの森」の活動は、そんな考え方とつながっています。
TOAST AND HONEYは地域へ出ていくための「ドア」

JR下総松崎駅の近く、成田市大竹にあるアートカフェ「TOAST AND HONEY」は、2015年にオープンしました🍛
建物はもともと割烹料理店だったそうです。
実は私にとって、ここはオープン当初からずっと気になっていた場所。
今回ようやく訪れることができました♪
アーティストであるシムラさんが、なぜカフェを始めたのか。
理由を伺うと、答えはシンプルでした。

「ミュージアムカフェを作りたかった」
美術館に併設されている小さなカフェのように、いろいろな人が集まり、アートを見て、アートについて話す。
そして、そこから地域へ飛び出し、街にあるアートや人と出会っていく。シムラさんは、そんな場所をイメージしているといいます。

その思いは、店名ロゴにも表れています。
TOAST AND HONEYのロゴには、店名を反転させた鏡文字のようなデザインが使われています。
農村部にある小さなカフェで、周囲に大きな観光施設があるわけではありません。
それでも、この場所を訪れたことで見方が反転し、地域の街並みがアートに見えたり、そこにいる人がキャラクターのように感じられたりする。
そんなきっかけにしたいという意味が込められているそうです。

シムラさんにとってTOAST AND HONEYは、地域へ出ていくための「ドア」であり、入口なのです。
店内には、シムラさんの作品だけでなく、さまざまなアーティストの作品が数多く展示されています。
作品を眺めながら食事をし、窓の外に目を向けると、成田の農村部らしいのどかな田園風景。
店内の作品と外の景色を行き来しながら過ごすうちに、私にはカフェや街全体が作品のように感じられました。
料理も、この場所を語るうえで欠かせません!
休日の過ごし方を伺うと、返ってきたのは「旅に出ている」という答え。
梅雨の時期が苦手で、その頃は東南アジアへ行くことが多く、旅先では料理に使う調味料やスパイスも購入してくるそうです。

いただいた「TOAST AND HONEY オリジナルスパイスカレー」は、カルダモンやクミン、クローブなど複数のスパイスを使った一皿。
一口目からスパイスの香りがしっかり感じられ、まるで海外で食べているような味わいでした。

複数のスパイスと生のショウガを煮込んだ「自家製クラフトスパイスジンジャーエール」にも、シムラさんが海外で選んだスパイスが使われています。

黒米にポルチーニ茸とチーズを合わせた「黒米のチーズリゾット」は、食べた瞬間に思わず「うまっ!」と声が出たほど。ポルチーニ茸の香りと濃厚なチーズの組み合わせが印象に残りました。

驚いたのは、これらの料理をシムラさんが一人で切り盛りしていること。
作品に囲まれた空間で、アーティスト本人がつくった料理を味わう。

ここではアートと料理が別々にあるのではなく、自然につながっていました。
※紹介したメニューは伺った時点のものです。来店時には内容が異なる場合があります。
「アートを目的に、この場所に来てもらう」
シムラさんの活動は現在、成田市だけでなく、栄町、芝山町、横芝光町など成田空港周辺の地域へ広がっています。
芝山町では、古墳や埴輪といった地域の歴史を題材にしたアートプロジェクトにも関わり、地元の子どもたちと交流しながら制作を進めています。
過去のインタビューでは、「ふわりの森」を成田・栄町・芝山・香取・横芝光町・多古・神崎・山武・富里の9市町へ広げていきたいという構想も語っていました。
作品を見た人が、この地域ではこんなことがあったのだと感じられるアートを、街の中に増やしていく。
その先にある目的を、シムラさんはこんな言葉で表していました。

「アートを目的にこの場所に来てもらう」
TOAST AND HONEYを出て帰り道を走るとき、見慣れた成田の風景が、少しだけ違って見えるかもしれません。
シムラユウスケさんと「ふわりの森」の活動をもっと知りたい方へ
街で見かけた作品の背景をもっと知りたくなったら、シムラさん本人の公式Instagramや公式サイト、ふわりの森の公式サイトをのぞいてみてください。
作品や活動についての情報が発信されています。
そして、私と同じように「TOAST AND HONEYがずっと気になっていた」という方は、ぜひ一度足を運んでみてください☕

車で訪れる場合は、店舗脇に駐車場があります。

